企業の「安全配慮義務」と防災備蓄
従業員の帰宅指示・留め置き判断の
法的な境目
「暑いから帰宅」は正しい判断なのか?
今年も全国各地で猛暑日が続き、最高気温が40℃近くに達する地域も珍しくありません。熱中症警戒アラートが発表され、通勤中や屋外での作業中に体調を崩す人も増えています。
企業では「今日は早めに帰宅させるべきか」「在宅勤務へ切り替えるべきか」といった判断を迫られる場面が増えています。一方で、日本は地震や台風、豪雨など自然災害が多い国です。災害発生時には、従業員を帰宅させることが必ずしも安全とは限りません。実際に首都直下地震などでは、無理な帰宅による二次災害を防ぐため、企業が従業員を社内に留め置くことが推奨されています。
つまり企業には、
・帰宅させるべき状況
・社内に留め置くべき状況
この2つを適切に判断する責任があります。
今回は、安全配慮義務の観点から、企業が知っておくべき「帰宅指示」と「留め置き」の法的な考え方を解説します。
目次
1 安全配慮義務とは?
安全配慮義務とは、企業が従業員の生命・身体の安全を確保できるよう配慮する義務です。
これは労働契約法第5条に定められています。
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をするものとする。
【参考】厚生労働省 労働契約法のあらまし
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoukeiyaku01/dl/13.pdf
この義務は勤務時間中だけではなく、
- 通勤への影響
- 災害発生時の対応
- 熱中症対策
- 避難指示
なども企業の判断が問われるケースがあります。
2 猛暑日は「帰宅させる」が
安全配慮になる場合もある
近年ではWBGT(暑さ指数)が危険レベルとなり、以下の場合だけでも熱中症のリスクが高まっています。
- 通勤途中
- 屋外移動
- 営業活動
- 自動車での移動・待機
例えば、以下のような事例・事故が発生すると、企業の安全配慮義務が必要となります。
- 空調設備が故障した
- 建物内が危険な温度になった
- 熱中症警戒アラートが発表された
- 高齢者や基礎疾患を持つ従業員が多い
このようなケースでは、以下のような判断が安全配慮義務を果たす行動として考えなければなりません。
- テレワークへの切替
- 時差退勤
- 早期帰宅
もちろん、個人の体調管理も重要です。しかし、熱中症対策を従業員任せにすることはできません。企業が適切な予防措置を講じていなかった場合、安全配慮義務違反として責任を問われる可能性があります。企業は従業員が安心して働ける環境を整え、熱中症リスクを低減するための対策を講じることが重要です。
3 地震では「帰宅」が危険になることも
一方、大規模地震では考え方が逆になります。
首都直下地震では数百万人規模の帰宅困難者が発生すると想定されています。
災害直後に一斉帰宅すると、以下のような多くの危険があります。
- 建物倒壊
- 火災
- 余震
- 道路混雑
- 救助活動への支障
そのため東京都をはじめ多くの自治体では「むやみに帰宅させない」という考え方を基本方針としています。
4 留め置きには備蓄が必要
しかし「会社に留まってください」だけでは安全配慮義務を果たしたとは言えません。
最低限必要になるのが、以下の防災備蓄です。
- 飲料水
- 非常食
- 簡易トイレ
- 毛布
- 蓄電池・モバイルバッテリー
- 照明
- 衛生用品
一般的には3日分以上の備蓄が推奨されており、企業規模によっては数百人分を準備する必要があります。
5 帰宅指示と留め置き判断の目安
| 状況 | 基本的な判断 |
|---|---|
| 猛暑・熱中症警戒 | 早期帰宅・在宅勤務を検討 |
| 台風接近(事前予測可能) | 計画的な在宅勤務・休業を検討 |
| 大規模地震直後 | 原則留め置き |
| 豪雨で道路冠水 | 安全確認まで待機 |
| 大雪で交通機関停止 | 無理な帰宅を避ける |
重要なのは、
「帰宅させること」が安全なのか、
「留め置くこと」が安全なのか
をその時点の状況で判断することです。
6 BCPでは「備蓄」が企業の判断を支える
企業のBCP(事業継続計画)では、以下の整備を実施していると思います。
- 災害対応マニュアル
- 安否確認
- 帰宅ルール
ただ整備していても、備蓄が不足している企業は少なくありません。備蓄がなければ「留め置きたいが食料がない」という理由で危険な帰宅を選ばざるを得なくなる可能性があります。
つまり、防災備蓄は単なる非常用品ではなく、企業が安全配慮義務を果たすための重要なインフラといえます。
7 防災備蓄を「管理できる仕組み」も重要
防災備蓄は購入して終わりではありません。
- 消費期限管理
- 入替作業
- 保管スペース
- 担当者の負担
といった課題が発生します。
そのため近年では、必要な備蓄を定額で導入し、期限管理や入替まで任せられる防災備蓄のサブスクリプションサービスを活用する企業も増えています。
備蓄を継続的に維持できる体制を整えることが、安全配慮義務とBCPの両立につながります。
8 まとめ|企業防災は柔軟な備えが重要
猛暑日には「帰宅させる」ことが従業員を守る判断になる一方、大規模地震では「留め置く」ことが安全配慮義務を果たす行動になります。企業に求められるのは、一律の対応ではなく、その時々のリスクを正しく判断できる体制です。
そして、その判断を支えるのが十分な防災備蓄です。
「帰宅させるか」「留め置くか」ではなく「どちらの判断にも対応できる備えがあるか」が重要です。
これからの企業防災では、その視点がますます重要になるでしょう。







